第一回有機農業のカタチ
〜土は財産〜栗山かなまる農園金丸代表
農業が盛んな夏の北海道。札幌市から車で1時間ほど移動したところにある栗山町の有機農家の金丸さんを訪ねました。慣行農業から有機農業に転換して35年の金丸さん。その経緯と現状についてお聞きしたいと思います。
私は、北海道栗山町で35年間有機農業をしています。
60棟のハウスで、夏はミニトマトをメインに、ピーマン、前後作に小松菜のサイクルで栽培をしています。全ての圃場で有機JAS認証を取得しています。
元々は、慣行栽培で種いも主体の畑作や、百合やカサブランカの球根を育てていました。
そこで球根を育てるのに、締まった良いものを育てる必要があります。それには土が重要と考え、そこから私の土作りが始まりました。
東京に土壌改良資材の製造・販売をする会社があり、そこに年1回約10年くらい通い堆肥作りの勉強をしました。
しかし1988年の輸入自由化に伴い、それまでの球根の栽培から南瓜をメインに、トマトなどの野菜の栽培に切り替えました。
3町分あった南瓜の圃場を、堆肥やぼかし肥料の効果を知るために一部を区切り、農薬を使用せずに南瓜を栽培。これが有機栽培に転換した最初の一歩でした。
一番果を収穫したものを売るために都内の青果市場へ直接持ち込んだところ味を褒めていただき、土作り・有機農業の大切さを改めて認識し、良いものを作らないと売れないということに気付きました。
そういうことで段階的に有機の面積を増やしていきました。
慣行栽培のときは、とにかく収量を増やすことを考え
農薬を減らそうという気はありませんでした。
しかし日持ちもせず品質が良くないことが多かったんです。
土壌微生物の環境をしっかりと意識した土づくりをおこなうことで、野菜の品質が上がり、病害虫で困ることも少なくなりました。
土作りを35年続け、土は財産だと感じます。
不安定だった土壌も、土づくりを始めて3年位で改善効果が出て生育は安定してきましたが、販売が伸びず苦労しました。
この苦しかった最初の10年を頑張れたのは、師匠の叱咤激励のおかげです。
師匠は栽培技術を教えてくれましたが、販売に関しては自分の感覚を養うために、営業などは自分で頑張りました。
そんな中、ある外食産業の企業からお声が掛かり、栽培をお願いされたことがきっかけで本格的に有機のミニトマトの施設栽培が始まり、経営が好転していきました。
色や形のレベル、味や日持ちなどの選別に非常に厳しく、そこから少しずつパートさんなども増えてきた。
ただ地域の高齢化も進み、中国の実習生にもお願いするようになりました。
いまは大手スーパーなどの量販店の取引先も増え、有機農産物の需要は増えています。
実際に慣行農業のときは、相場や天候により価格や収量が不安定で赤字のときもありましたが、今は有機の施設栽培に切り替えたことで、売上も倍以上になり、利益を大きく残すことができています。
持続的な生産・販路があることで安定的な経営に繋がりました。
品質のこと、時代の変化もあり、苦労しながらも少しずつ変化していったのですね。実際に慣行農業に比べ、有機農業に転換してから、経営面や作業面ではどのように変わりましたか?
まず経営面ですが、人件費は膨らむけど手元に残る利益が全然違います。
慣行農業のときと比べ、1,000万(円)くらい開きがある。慣行のときは赤字のときもありました。
卸販売価格は、慣行と比較して約1.5倍ですが、販路拡大を意識しているので、一般的な有機野菜より価格を抑えています。
経費に関しては、人件費が売上の3分の1を占めます。ほか堆肥や肥料の資材として年100万円以上。
人件費に関しては、北海道なので夏に比べ冬の仕事が少なくなりますが、自分の土で床土のポットで育苗ができることで、冬の仕事にもなる。
種を植えた時点での環境で野菜の生育が決まる。
もみがら堆肥と山土、ぼかし肥料で混ぜれば床土が健康な苗ができるうえ、買えば価格は3倍になるし、その分消費者の価格も抑えられることで、生産者と消費者双方のWin-Winとなり、また継続した雇用にも繋がります。
自分で作ることで、微生物の動きが見え、関心がでてくる。
働いている方々には、そう感じてほしいと考えています。
冬は勉強期間にして、夏は収穫など忙しくするサイクルが、弊農園の一年の流れです。
また人が増えたことにより、除雪作業などができることで、作付け計画はうまく回るようになり、生産性が上がり運転資金の回転も早くなりました。
作業する人がいないと、冬は除雪が遅れ、作付け計画がずれてしまう。
そうなると作物の出来にも影響し、正品率が下がってしまいます。
慣行農業から有機農業に転換したことで、冬の間も堆肥作りを仕事にし、夏は必要ない農薬を撒かず、収穫に専念できることで、健康的に仕事ができるようになったのも有機栽培のおかげです。
現在は常勤の技能実習生と、スポットで農福連携として施設の方が働きに来ていただいています。
技能実習生は、6年続けてくださる方がリーダーとなり、計7人の方に来ていただいています。
男性の方もいるので、力仕事やハウスを建てるときに非常に助かっています。
販売先は、道内・外の有機農産物を求める卸業者さんをメインに、10社ほどの取引があります。一部消費者へ直販もしています。
施設栽培の安定感、また有機にすることにより自分で販路を築くことができ、経営が安定した結果だと思います。
安定した営農を続けている金丸さんですが、今後の新しい展開は考えていますか?
今後は、直接消費者に向けて販売を広げていきたいと考えています。
農園に遊びに来てくれる方達もいます。こども達が美味しそうにトマトを食べる姿にこちらも嬉しくなります。トマトは酸味とのバランスが良く昔のようなトマトの味がすると評判。
取引先の関係で来てくれます。
また利益率も考えて、加工も軸にしていきたい。加工商品でジュースやソースを開発して販売していきたいと思い、試作をしている段階です。
有機ピーマンの需要も高いので、こちらも増やしていきたいと計画しています。
これからも時代に合わせて戦略を変えながら、営農していきたいです。
これから有機農業を始めたい方に向けてメッセージをお願いします。
これから有機農業を始める方に、お伝えしたいこと。
一番は自分で売り先を持つこと。
技術やしっかりしたものを作ることと同時に、販売先をどうするか。
安定的な取引先を見つけるには一定の収量も必要です。
例えばハウス2,3棟だけでひとりだけの出荷ですと売り先を見つけづらい。
最初は個人だと難しい場合でも、グループを組み、共同出荷しながら、販路と栽培面積を増やしていく。
仲間と協力しながら基盤を作ることも大切です。
そして土作りにおいて、3年は辛抱する期間が必要と想定して、計画を立ててください。
4年目から土が変わります。2、3年目が一番大変だけど大切。
ここを支えてくれる環境がとても必要だと私は感じています。
私は、空知総合振興局で有機ネットワークの相談役をしています。
行政だけではなく、農家同士で地域の輪を繋いでいくのが大事。
いつでも相談しに来てください。
最後に一言お願いします。
最後に、有機農業を通じて、これからの子どもたちに旬の美味しい野菜を感じてもらうために、我々ができることを考えていきたいと思います。
特に、学校給食に有機野菜を使う取り組みが広がっていければ良いですね。そのために我々もできることをしたいと思います。
持続できる農業を、一緒に頑張りましょう。