株式会社マイファーム有機農業推進総合対策緊急事業事務局

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有機農業に取り組む
生産者インタビュー
有機農業に取り組む生産者インタビュー

第二回有機農業のカタチ

〜地域で取り組む環境づくりの大切さ〜JAやさと有機栽培部会廣瀬さん、田中さん

JAやさと有機栽培部会

筑波山の麓にある里山の風景が美しい茨城県石岡市八郷地区にあるJAやさと有機栽培部会を訪ねました。毎年新規就農者が増え続け、地域農業に貢献をしています。
JAやさと有機栽培部会長の田中さん、JAやさと営農指導課課長の廣瀬さんにJAやさと有機栽培部会が取り組んでいることや、地域としての有機農業の未来像についてお尋ねします。

1976年にJAやさとの前身である八郷町農協と東都生協さんとの産直の取り組みがはじまったのが最初です。卵からはじまり、野菜、果実、米、納豆と広がっていきました。

そもそもこの地域の農業は、山あいが多く、畑が小さく点在しているのが特徴なんです。
昔は桑の栽培、タバコの栽培を経て、時代の変化があり、産直取引が始まりました。
慣行栽培の農家も市場出しより契約栽培がメインで、安定した営農が組めるのが特徴です。

1995年に、東都生協さんとの取り組みで、やさとグリーンボックスという野菜の詰め合わせセットの販売がスタート。これは有機関係なく、取れた野菜を箱に詰めて送る取り組みでした。

しかし、同じ野菜が入ったり、逆に物が揃わなかったりして、始めた当初は5000セットの注文があったが2年くらいで半減してしまいました。

そこで東都生協さんとグリーンボックスについて話し合いをしていた頃、有機農業推進法が出来上がる時期と重なり、有機農業が注目され始めました。

当時、農協の指導課にいた柴山さん(現:NPO法人アグリやさと代表)が、地元の有機農家と有機農業に関心ある慣行農家を集めて、土作りについて勉強会をしました。
それで有機野菜はなにかということを、農協や生産者が理解し始めました。

東都生協さんとともに有機野菜の販売に取り組むことが決まり、1997年に柴山さん含む当時7名の生産者で有機栽培部会を設立しました。

やさと地域の特徴として40数年前から有機農業をやっている方も多く、その方々にも設立メンバーとして加わっていただき、有機農業を教えてもらいながらスタートしました。

(左)JAやさと有機栽培部会長の田中さん(右)JAやさと営農指導課課長の廣瀬さん
(左)JAやさと有機栽培部会長の田中さん
(右)JAやさと営農指導課課長の廣瀬さん

ここから有機栽培部会が始まったんですね。既存の慣行農家が有機農業の勉強会に参加した理由はなんでしょうか?

私が聞いたところでは、慣行農家から、契約栽培が主体であるものの慣行栽培を続けていく不安やグリーンボックスの取り組みの際に、消費者から安全なものを求められたこと、親が慣行農家だが有機農業を一部から始めていきたい方、農薬を使用することに疑問を持つ方などが勉強会に参加していたみたいです。

最初にお伝えしたように、ここの地域は農地が狭く、中山間地なので大きい農業はできない。有機農業を選択肢のひとつとして入れたのは、必然だったように感じます。
私の上司であった柴山は先まで見据えて部会を立ち上げたんだと思います。また同時に中心的に協力してくれた方が有機JAS認証の取得の仕方から栽培まで全部教えてくださったのも大きかったです。

有機栽培部会にいた慣行農家も、いきなりすべてを有機栽培に転換するのではなく、圃場の一部から有機栽培をはじめていきました。
そのような方でも草だらけだったり、種を蒔いても収穫できないことがあり、周りからも心配をされていましたが、皆さん地元の方なので、そこまで奇異な目で見られることもなかったようです。

東都生協さんと一緒に始めたこともあり、スタート当初から部会としての売上も1000万を超えていました。
販売出口があることは非常に心強く、そういったものがなければJAやさと有機栽培部会もここまではなっていなかったと思います。

有機に転換して最初に苦労したこととして、生産者の意識が極端にいえば低かった。有機栽培だから虫が袋の中にいて当たり前のようなところがあり、それを出荷すると、消費者からクレームがきます。

そこでこういうのは出荷してはいけないと気がつくんです。
改めて、虫はどのタイミングでこの畑の中に侵入してくるのかとか、そういった生態を調べ、どのタイミングで防虫ネットにかければいいとか、そういう勉強をかなりしていました。

部会としてやっていることもあり、みんなでこの問題点をどこで解決するかとかそういうことができるのはすごく大きいです。そういう病害虫等の有機栽培の栽培管理の課題を少しずつ改善しながらやってきました。

(左)JAやさと有機栽培部会長の田中さん(右)JAやさと営農指導課課長の廣瀬さん

そのような改善を繰り返しながら、7名から始まった部会が、今や32軒と増えていますが、その理由について教えてください。

有機栽培部会を始めてみたものの、生産者が集まらなく最初は苦労しました。農協自体が市場出しより契約栽培がメインなので、慣行農家も安定した売上があるのが、部会に集まらない大きな理由でした。

しかし当時から生産者の高齢化が始まり、畑が減っている状況でした。
この状況を打開できないかと、有機栽培部会を設立した柴山さんが、1999年に新規就農者を受け入れる制度を作りました。

1999年にJAやさとが、ゆめファームやさと研修制度を開始。ゆめファームの一番の特徴は弟子制ではなく、研修圃場を農協で用意してそこに入っていただくという制度です。夫婦での応募が条件で、有機農業を学び栽培から販売まで自ら行います。

部会に参加している農家の方が1週間に1度、指導農家としてつきます。研修期間は2年で、最初の1年は研修指導が付き、教えてもらう。研修生2年目は1年目に習ったことを実践していただきながら、後から入った研修生をフォローしていただきます。
そうすることによって、研修生が研修生に教える際に気づきを発見するのが狙いです。
そのサイクルを続け、毎年1家族を受け入れ、実践的な研修を経て地域農業の担い手として送り出します。

指導農家は、研修生に有機栽培だけではなく、地域の接し方や生活面の相談も受けるメンターとしての役割も担っています。

研修生には、就農準備資金を活用いただきながら、生活費の足りない分は農協で貸付を行うなど支援をしています。

また研修期間中の圃場や農機の維持費等はすべて農協が負担をします。
新規就農する方が少しでも負担なく安心して農業を続けられる環境づくりをしています。

※基本農協が負担をしますが 研修生より研修費として月1万円を徴収し維持に充てています。また種や肥料は、研修中に出荷した野菜の売上から負担。

それぞれ皆さんの圃場で有機JAS認証を取得しているのも大きな特徴のひとつといえます。

私自身も2011年にここの研修に入り、2013年には独立して今に至ります。

それこそ私が部会に入った当初は、最初は苦労しながらひもじい思いをするというのが当たり前のような風潮がありましたが、今は部会に見学に来て、部会の人間がトラクターや家を購入したり、野菜の販売だけで普通に生活をしているのを目の当たりにしているので、そういった不安を持つことも少なく、部会に入っていただいています。

町としても移住者が増えたことでもちろんメリットもありますし、有機栽培部会を取り巻くコミュニティがすごく広がっているんです。会議するときは40畳の部屋で収まらないことも。
毎年増える新規就農者ですが、2017年にはゆめファームに続き、朝日里山ファームが研修圃場として誕生しました。
これは、石岡市が運営しています。(NPO法人アグリやさとが業務委託先として運営)
この2つの研修圃場を使い、研修生の受け入れを行っています。

毎年1組ずつ増え、今では有機栽培部会32軒が集まる。そのうち9割が新規就農者です
毎年1組ずつ増え、今では有機栽培部会32軒が集まる。
そのうち9割が新規就農者です
ゆめファームでは有機農業経営を実践的に学ぶことで安心して独立ができる
ゆめファームでは有機農業経営を
実践的に学ぶことで安心して独立ができる

就農者、移住者が増え、地域が賑やかになりますね。部会としても大きくなった今の販路・販売状況について教えてください。

JAやさと有機栽培部会は、規模的に言うと売上高1億8000万円で、栽培面積は約65ヘクタール。取り扱う野菜の品目数も30種類を超えています。

生産も全て計画に基づき、お客様には約束した数字を基本的に出荷するようにしています。
年2回、生産者から何を作るか、どれくらい増えるかを数字で把握し、それに基づいて各取引先に提案していきます。ここの数字をある程度把握できておかないと取引先に営業ができません。

そのための計画に基づいた栽培出荷ができるよう技術力を常に高める意識を持っています。
部会から生産者へお願いしているのは、生産の加減は20%に抑えること。
それでも収量が少ないときもありますので、そういうときは部会でカバーできるようにしています。

基本的に1品目、最低でも2軒の農家が栽培をして、どちらかができなくても、補えるようにしています。

出荷先は生協をメインとして、地場業者や都内市場への販路を確保しているため、安定的な営農計画を組むことができています。

市場ともしっかり話をして、時期を選び出荷する個数などを調整できれば、慣行野菜よりは高く買い取っていただけます。

有機野菜の大きさや形など多少ばらつきがあっても取引先は受け入れてくれますが、部会として販売していくのに一定の基準を設けています。
今後、新規取引や学校給食のお問合せがきても、きゅうりは出せます、他は出せませんではなく、全て提供できますと言える体制があるのが、部会の強みでもあります。

お取引先に関しては、お客様ということはもちろんですが、共に成長していくパートナーの関係ともいえます。パートナーとして産地を大きくしていこうというお客様がいてくれること。

そういったパートナーとして、生協、都内市場の卸会社、地場の小売店舗への出荷の三つの体制があるのは非常に心強いことです。
売り先があって、新規就農者の受け入れができ、地域の経営体制も整っているのが、JAやさと有機栽培部会の大きな特徴ともいえます。

JAやさと営業所前にある柿岡直売所の有機野菜コーナー(昼過ぎのため野菜が少なめ)
JAやさと営業所前にある柿岡直売所の
有機野菜コーナー(昼過ぎのため野菜が少なめ)

有機と慣行のコストについて比較や現状の課題についてお聞かせください。

JAやさとではコスト比較はしていませんが、もちろん農薬や肥料のコスト代は慣行栽培のほうが掛かります。有機野菜は慣行野菜に比べ最大2倍の価格で販売できます。
しかし有機栽培における草取りで人件費が掛かり、全体としては有機栽培のほうがコストは掛かってしまいます。

そのようなことから労働力について課題に感じます。部会としては、安定的に新規就農者の受け入れをしてきていますが、個々の農家が忙しいときに、補填できる労働力がないこと。
生産者が休めないことも問題で、ここを解決できる仕組みを考えています。

また研修生が独立後のための畑や居住(移住)するための家がすぐに見つからないこともあります。部会としての紹介事業はしていませんが、部会で協力して空いている畑を一緒に探したり、地域の方に紹介をしてもらえるよう働きかけています。
空き家も多くある地域ではないので、課題に感じます。

栽培に関しては、農薬や化成肥料を使用しない有機栽培なので、それ故に、今の課題は作物がこの暑さ寒さにどう対応していくか。
特に今年の夏は酷暑で非常に大変で、作物の管理が非常に難しくなってきました。
収穫のデータを取っていますが、栽培スケジュールがどんどん変わってきています。
例えば、昔は7月20日に人参のタネを蒔けば、11月1日に収穫ができるのは当たり前でしたが、今は2週間以上遅らせてタネを蒔かないといけなくなってきています。

環境づくりの為に重要な要素である土づくりについての取り組みを教えてください。

当たり前の話ですが、野菜を育てるための環境づくりが大切で、栽培における最も重要なことは、土づくりです。これができていないと病害虫にもやられていく訳ですので、この仕事が8割を占めます。
農薬は使用していませんが、本当にこのままでは全滅してしまうということがあれば、有機JASの中で使用可能な農薬を使う人がいますが、むしろ農薬を使用するくらいなら全滅を選ぶ人がいるくらいポリシーを持っている人が部会には多いです。
化成肥料も使用しません。

我々部会としては、環境調和型農業と地域資源循環型農業を意識し、地域の家畜糞尿や落ち葉、稲わら等を原料とした堆肥を施用し、有機物を利用した土づくりに取り組んでいます。

これらの有機肥料は窒素、リン酸、カリウムなどを含む化成肥料と比較して、二酸化炭素の排出を抑えられ、土壌で炭素貯留もできるため、温暖化対策として環境保全にも繋がると考えています。

糞尿や稲わらは、JAやさとの鶏卵生産部会や稲作部会、地元の養豚農家等から調達しています。

病害虫対策では、輪作を基本とし、緑肥や防虫ネットを活用しています。また、マルチフィルムを効果的に利用することで除草の手間を削減し、生産面積を拡大しています。土壌微生物が繁殖しやすい環境を作るため、緑肥を活用しています。

そのほか、計画通りの野菜が作れる栽培技術の統一化やサービスの向上を図って勉強会を実施、生産者の課題を聞き、外部の種苗会社や肥料会社に来ていただきアドバイスをもらったりしています。

化学肥料・化学農薬を使用せず、地域資源を活用した堆肥で土づくりを行う
化学肥料・化学農薬を使用せず、
地域資源を活用した堆肥で土づくりを行う

ありがとうございます。そのほか地域で取り組んでいることはありますか?

石岡市からは朝日里山ファームの関わりも大きいですが、市内の学校給食の取り組みに関しても応援をいただいています。
もともと地産地消の取り組みとして、JAやさとでは学校給食へ野菜を納入していますが、現市長が「学校給食に有機野菜を!」と言ってくださり、国の補助金を活用しながら、2021年に有機きゅうり382kg、有機レタス72kg、2022年に有機きゅうり595kg、有機レタス318kg、有機小松菜367kgを納めました。

オーガニック給食に関してはまだまだ始まったばかりで小さなスタートではありますが、今後広がっていけばと考えています。

また部会の農家のご家族がフードドライブ事業に取り組んでいますので、こども食堂への食材提供として部会から野菜を提供させていただいています。

そのほか、消費者向けにSNSの発信などをしています。我々は基本BtoBの取引なので、直接消費者の方とお取引することはありませんが、それでも生協を通じて名前も顔も見せた形になってるので、我々が日々何やっているかの情報を発信しています。

有機野菜は付加価値が高いから高く売れると思われがちですが、実際には人の繋がりがあって有機的な関係性があるから、有機野菜を買っていただいていると考えています。
我々がどのようにして活動しているか、なにを考えて有機農業をしているかを発信することで、消費者の方が有機野菜を買ってみようかなと購入の入口になればと思っています。

そのような総合的かつ持続的な有機農業の取り組みを通じて、今年のはじめに全国農業協同組合中央会とNHKが主催している 第52回日本農業賞「集団組織の部」の大賞を受賞しました。また、第62回農林水産祭「園芸部門」で内閣総理大臣賞を受賞しました。
JAやさと有機栽培部会の有機農業の取り組みが、関係各所に認められることは大変嬉しいです。

JAやさと営農流通センターに、「日本農業賞大賞を受賞」と大きく掲げられた懸垂幕
JAやさと営農流通センターに、「日本農業賞大賞を受賞」と大きく掲げられた懸垂幕

最後に部会としての今後の展望と、有機農業を取り入れたい地域へのアドバイスをお願いします。

JAやさとでは、有機野菜の生産・販路拡大を目指しながら、野菜だけではなく、有機米の栽培にも挑戦しています。お取引先である東都生協さんと共同でアイガモロボットを使い有機米の生産・販路拡大を目指しています。

儲かるからとか有機が注目されているからといって始めると失敗をします。
そうではなく、やはりお客さんの健康をしっかりと守っていきたい、農業自体を未来に繋げていきたいからやるんだ!という気持ちで取り組むことが大切だと思います。

そのためには、一緒に有機栽培に取り組んでいく仲間を受け入れる環境作りや、消費者や野菜を販売してくださる業者の皆さまとの関係性をしっかり築いていくことが重要です。

部会の農家は、周りの人を健康にしたい、農業を未来へ紡いでいきたいと考える人ばかりです。そのような考え、意識が広まれば、有機農業が広がっていくと考えています。

JAやさと有機栽培部会の取り組みは、みどりの食料システム戦略、男女共同参画、食育活動、地産地消等の持続可能な社会形成・SDGsの達成に繋がっています。
引き続き、次世代に繋ぐ取り組みとして、信頼される産地を確立したく思っています。

有機農業を広めていきましょう。